Big Wheels
Electric Light Orchestra
1977 "Out Of The Blue" Jet/UA UAR 100 / LP
 Jeff Lynnを中心に「Telephone Line」や「Confusion」などのヒットを飛ばした頃のELOのイメージといえば、ビートルズや50'sオールディーズへの限りなく深いオマージュ、SE好き小ネタ好きといったアイディアと遊び心満載のギミック、ワンパターンと言われようと保持し続ける自己のスタイルへの絶対的自信、そしてJeff Lynnのその後の「再生屋活動」からも明白な裏方志向。以上を総合すると僕にとっては「ロンバケ以前に出会ってしまったナイアガラ的音楽」であります(笑)。だから『ロンバケ』の第一印象は「あ、ELOみたい」という感じでした。今改めて聞いても『Discovery』などは結構ナイアガラっぽいところがありますね。

 ELOもナイアガラ同様に雨の名曲がいくつかありますが、一番有名なのが絶頂期の1977年に出した2枚組『Out Of The Blue』のSide-C。この面には"Concerto For A Rainy Day (雨の日のコンチェルト)"というサブタイトルが付けられており、雨をモチーフにした楽曲が集められています。この面は一つの組曲といってよい程の完成度で、ELOの最高作の呼び声が高い本作の中でも特に傑出したパートだと思います。ちなみにこれらの楽曲はアルバムを録音したミュンヘンで連日雨が降り続いたことに因んで作られたとか。

 まず激しい雨が降り注いで荒れ模様の「Standin' In The Rain」で始まり、続いてメランコリーなスロー・バラード「Big Wheels」、ちょっとだけスペクター調の「Summer And Lightning」では雷が鳴り響き、そしてあの有名な「Mr. Blue Sky」でようやく青空が見えて、最後は短いコーダで大団円。土砂降りの中で立ち尽くすヘビーな心境から徐々に快方に向かい、歓喜や希望を象徴する晴天が最後に現れる。という様な鬱のムードから一気に躁状態まで駆け上る構成は完璧の一言。雨や嵐や天気予報などのSEがふんだんに使われ、またいつものELOのストリングセクションではなくミュンヘンの交響楽団を起用したオーケストレーションは圧巻です。

 この中では「Big Wheels」が個人的にアルバムのベストトラック。物思いに耽りつつ雨の中の街の情景を静かに見つめているような穏やかな情感が伝わってくるようで、何度も何度も繰り返し聞きたくなってしまいます。Jeffの歌もなかなかにソウルフル。僕自身最近はELOではアップテンポのナンバーよりも、本作の「Starlight」や「Steppin' Out」、前作の「Shangri-La」、次作の「Need Her Love」のようなしっとりしたバラードが特に好きですね。


(醍醐英二郎)



Tinseltown In the Rain
The Blue Nile
1984 "A Walk Across the Rooftops" Linn LKH 1 / LP
 The Blue Nileは1980年代初頭にスコットランドのグラスゴーで結成されたグループで、Paul Buchanan(vo,g,kb), Robert Bell(b,kb), Paul Joseph Moore(kb)の3人組。元々はエレクトリック・ポップの分野で活動を開始し、1981年にRSOから出されたデビューシングル「I Love This Life」では単に簡素なエレポップ・サウンドを奏でていました。その数年後にインディレーベルのLinn(後にVirginの傘下)でファーストアルバム『A Walk Across the Rooftops』を発表。その頃に大流行したZTTサウンドなどに比べると音が薄くて淡白な印象を受けますが、デビューアルバムにして老成を感じさせる楽曲やプロフェッショナルなセンスに溢れた渋い音作りには当時から耳を奪われてしまいました。

 中でも「Tinseltown In The Rain」は、80年代以降の雨の歌の最高作の一つだと思います。雨の日のTinseltown(ハリウッド)。その中で浮かび上がる男と女の気まぐれな出会いと別れ。まるで映画の断片のような情景が淡々と歌われています。しかしその内側には狂おしいまでに熱気を帯びた情感が籠められており、どこか山下達郎「スプリンクラー」に共通するところがあります。叩きつける雨のようなシンセストリングが素晴らしくて、当初は小雨だったのが次第に激しくなり豪雨になっていく感じが見事に表現されています。あと時代を感じさせるチョッパーベースが「スプリンクラー」や「スペイス・クラッシュ」を彷彿させるところも実に僕好み(笑)。

 このアルバムの後は1989年に『Hats』、1996年に『Peace At Last』を出しただけという寡作ぶりで、まさに「お前はBostonか!(by 山下達郎)」状態。『Hats』は地方都市版『Avalon』(Roxy Music)という感じのアルバムで、その圧倒的な完成度により彼らはミュージシャンズ・ミュージシャンの座を不動のものとしました。。Robbie RobertsonやDaniel Lanoisの傑作に迫る内容の『Peace At Last』は僕自身90年代で一番聞いたアルバムかも知れません。で、次の作品は?まあ、こちらが忘れた頃になれば出るのではないでしょうか(笑)。

(醍醐英二郎)

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