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シングル1枚限定の変名活動だったThe Three Wise Menでの共同作業を経て、David Lord(Peter
Gabrielの4作目を手掛けたことで知られる)をプロデューサーに迎えた本作は、再びAndy Partridge色の濃い、幾分硬質なアルバムとなりました。前作
Mummer ではやや大人しかったAndyもここでは元気を取り戻した様に思えました。
汽車の車輪のジャケットに、アルバム・タイトル、「The Everyday Story Of Smalltown」、そしてアルバムのラストを飾る「Train Running Low on Soul Coal」 などから、鉄道産業が盛んなことで知られる彼らの出身地スウィンドン(Swindon)へのオマージュを綴ったアルバムと言えます。郷里への敬意という点ではUffigtonの馬をジャケットに配した English Settlementから連なる作品でもあり、また、前作までに顕著だったアコースティックな音色を抑えてエレクトリック・ギターとドラムを強調した音作りを目指したことから、Black Seaを彷彿させる作品ともなっています。 Andy Partridgeは Mummerの出来に不満を感じていたようですが、本作のレコーディングではDavid Lordと意気統合したこともあり、やりたいことを好き放題できたようで、作品の仕上りにかなりの自信を持っていたようです。Andy自身「誰が何と言おうとこれは傑作だ」と今でも断言しています。その反面、他のメンバーはAndyの偏質狂なまでの拘りにヘキエキとしたとも伝えられています。 華やかな「All You Pretty Girls」、奇妙に愛らしい「Seagulls Screaming Kiss Her Kiss Her」、静かなメッセージ・ソング「This World Over」、元マネージャーへの皮肉を込めた「You Bought Myself a Liarbird」、そして久々にヘビーなナンバー(「Train Running Low on Soul Coal」)でアルバムの幕を閉じるパターンを復活させるなど、Andyらしい意匠に満ち満ちています。Andyは「XTCでもっともアヴァンギャルドなアルバムだ」と語っているそうで、私は Drums And Wiresの方が遥かにアヴァンギャルドで前進的に思えるものの、ある種Andyにとっての理想を追及したラジカルなポップ・アルバムという位置付けができるかなと考えております。 また当時の人気プロデューサーのDavid Lordを擁したことで、PoliceやGenesisなど同時代の人気バンドに匹敵するプロダクションを達成することができ、今思えば「時代の音」を感じさせてくれた最後の作品だったかな、とも思えてきました。 私自身は元気なXTCが帰って来たという印象から、かなり好意的に捉えているアルバムなのですが、ただ、その元気というのも Black Sea の頃のものとは随分変わってしまったという思いは当時からありました。最大の理由はライヴ感が喪失されていることでしょう。ライブ・バンドにとっての命であるドラマーの不在が蔭を落しているような気がしてなりませんでした。元気な音になっても、もう「Living Through Another Cuba」や「Paper And Iron」などにあった強烈なグルーヴはもはや取り戻すことは出来ないのだと痛感しました。XTCの近作について「密室的」だ云々という声も多く聞かれますが、その密室性というのは既にこの時点で露わになっていたのです。そうした寂しさも少し感じ、無性に「ああ、Terry Chambersはいないんだな」ということを感じずにはいられませんでした。 本作は意欲作だったにも関わらず、前作に続いて商業的に失敗しました。評論家筋からの受けはますます良くなるものの(特に日本では)、バンドの存続においては危機に面していたようです。しかし、そんな彼らを救ったのが本作の直後にお遊び企画としてリリースされたThe Dukes of Stratospheareの 25 O'clock のリリースです。皮肉なことに、これが The Big Express以上の売上を記録したことで、彼らは新たなファンを獲得することが出来たのでした。 |
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