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70年代は革新的なニューウェーヴ・バンドとして登場し、80年代は英国王道ポップ・ロックの伝統を受け継ぎつつ、音楽の可能性を模索する才人集団として駆け抜けたXTC。1980年代後半には
Skylarking と The Dukes of Stratosphear という大きな成果を得たことで、Musician's Musician
としての地位を完全に確立した観があります。こうした周囲の期待が今まで以上に高まった中で作られたのが本作
Oranges & Lemons です。
前作に続いて米国録音でしたが、プロデューサーは米国の Paul Fox という新進の人物だった為、前作のようなプロデューサーからの制約がほとんどなくなり、Andy の思うがままの作品を作る事ができました。English Settlement 以来の大作で、肩の力が入り過ぎな程の濃厚で複雑なポップ・ソングの集積です。Andy 自身、そのEnglish Settlement や The Big Express と同様に気に入っているアルバムのようです。 この作品の印象を一言で言うと、80年代 XTC の集大成ですね。XTC を特徴付ける多様な音楽的要素がほとんど詰め込まれています。まず、オープニングの「Garden of Earthly Delights」,「Poor Skeleton Steps Out」,「Hold Me My Daddy」などでは、久々にワールド・ミュージック的展開が聞かれます。「One of the Millions」や「Scarecrow People」などアコースティックな曲も、English Settlement の頃を思わせる屈折感が漂っています。 また、この頃の XTC を象徴するスタジオ・レコーディングの極致と思わせる作品も数多く含まれています。中でもシングルとなった「Mayar Of Simpleton」は人気曲で、彼らの優れたポップ・センスが存分に発揮され、更に凝りに凝ったエンディングではその高度な音楽性が伺えます。Colin 作の「King For A Day」は Tears For Fears の「Everybody Wants To Rule The World」のようなアレンジですが、楽曲はこちらの方が僕は好き。また後期Beatles 級の佳作「The Loving」, Steely Dan のような不思議なコード進行が痺れる「Cynical Days」や「Miniature Sun」も印象的です。 このアルバムで最も重要な作品はラストの「Chalkhills And Children」でしょう。Chalkhills は彼らの故郷Swindon 近郊の地名で、English Settlement のジャケットで知られる Uffington White Horse の地上絵がある所です。楽曲は Stewert/Gaskin 調の浮遊感漂うバラードですが、歌詞がずっしりと来ます。「僕は奇妙なものの上に浮かんでいる。それは魂が無くピカピカしたショウビズの月。…僕はどんどん舞い上がって行く。名声の気まぐれな炎に惹かれ漂って行く。白墨の丘と子供達が僕を引き留めてくれるまで。」自分の人生には名声よりももっと大事なものがあるんだという内容で、「Funk Pop A Roll」と同様のポップ業界への決別宣言ですね。 Oranges & Lemons は各国で前作以上にヒットし、米国ではカレッジ・チャートの一位にまで到達しました。その成功の最中、XTC の3人はプロモーションの為に米国に渡り、ギター3本で各地のFM局を回って演奏する「アコースティック・ラジオ・ツアー」を敢行します。7年の間、一切ライヴをやらなかった彼らにとっては異例の試みでしたが、聴衆を目の前にしないことでリラックスした演奏が可能になったようです。 また、このツアーの副産物として多くのブートレグが生まれました(笑)。これを聞くと、この時期のライヴ向きとは思えない難度の高い楽曲を、アコースティック・ギターだけでこなしている事に驚かされました。同時に、複雑ながらも弾き語りだけで成立する世界に移行しているだということも痛感させられました。ドラマー不在のバンドなのだから、さもありなんですが。もはや、その10年前の XTC とは全く別の次元に到達していたという事です。 このアルバムは当時、山下達郎『Melodies』、Peter Gabriel『So』と並んで、車の中でよく聞いたことが個人的に思い出されます。音の抜けがとても良かったこともあり、XTCの作品中で最もドライヴィング・ミュージック向きでした。「Mayor of Simpleton」や「King for a Day」を聞くと思わずアクセルを踏む足に力が………。いやはや、危ない危ない(^^;;)。 |
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